いつも多大なご支援を頂き、また志を同じくする酒井先生とNPO岐阜立志教育支援プロジェクトについて語り合いました‼️
是非ご一読下さいm(_ _)m
【子供たちに志を持たせたい】
10年前から応援せていただいている
「NPO法人 岐阜立志教育支援プロジェクト」の
岩田理事長・古澤副理事長に
インタビューさせていただきました。
日本人は諸外国に比べて、
自己肯定感が低い民族です。
人は自己肯定感以上の活動はできません。
ここを上げることは、わが国が将来
どこまで魅力的でいられるか否かを
分かつほどの重要な課題です。
では、どうしたら自己肯定感を
上げることができるのか…
辿り着いたのが、一人ひとりに人生に
夢と志を持っていただく小中学校での立志教育でした。
お二人が代表を務める岐阜立志教育プロジェクトは、
小中学校の先生や父兄を巻き込みながら、
岐阜県内で毎年1000人以上を指導されています。
私の子供も中学生の時に立志教育を受けさせて
頂きました。子どもの教育に興味をお持ちの方は
是非お読みください。
岩田喜美子先生 古澤丈介先生×酒井英之
親御さんも地域も巻き込み、子どもたちに「志」を持たせる学びの場
いつの時代も大人の課題である「子どもの教育」。しかし昨今の日本では、子どもたちが夢を持ちづらい環境にあるばかりか、親御さんも自らの経験から「夢や目標より現実を」と考えているように感じます。 そんな今だからこそ、大人たちが「夢や目標」の大切さをしっかり伝えたいと、2008年に立ち上げられた「NPO法人 岐阜立志教育支援プロジェクト」。あらゆる角度からプロが関わることで、子どもに「夢や目標を考える場」を与え、「自ら行動する心」を育むこの取組について、岩田理事長と古澤副理事長にお話を伺いました。
元小学校教師×現役建築士が、NPO法人に携わったきっかけ
酒井:
本日はありがとうございます。
岐阜立志教育支援プロジェクトには、昔、息子も中学生の頃に生徒として参加させてもらい、大変有意義な時間を過ごしました。あれが10年以上前ですから、これまでにかなりの人数の子どもたちと関わってこられたのではないですか?
岩田:
昨年は19校におじゃまし、受講者数は保護者さんも入れると、一年間で1500名ほどです。
だいたい毎年そのくらいですね。
古澤:
一年間で1,500人は凄いですね!立志教育支援プロジェクトが立ち上がったのが2008年ということですから、もう1万人は超えているでしょうね。
そこで立志教育支援プロジェクトのこれまでの経緯と、両先生のご経歴を教えていただけますか。
岩田:
私は退職して6年目になりましたが、もともとは小学校の教師をしていました。
今は海津市の教職員の研修を担当しています。研修の中心は夏休み。職員の皆さんに8講座を提案し、その中から希望する講座を受けてもらいます。学びの共同体の講座では、先生方が話し過ぎず「こうするといいのか」という発見をしてもらいたいと思っています。
また、今はダンスが体育の必須単元になっていますが「リズムが取れなくて悩んでいる」という先生にも、自分の力で楽しく創作ダンスができるような指導方法を講師の先生が教える講座。図工なら「どうすればのびのびと造形に親しんでもらえるか」ということを具体を通して講師の先生から指導する講座等を設けています。
最近はLGBTや特別支援教育の話題も多いので、全教員対象で受けてもらっています。
どうやったら楽しく学びを提供できるかをテーマにし、ニーズをもらいながら、取り組んでいます。
酒井:
今伺っただけでも実に幅広いですね。小学校の先生はオールマイティでないといけないから、これは大変…。
そして古澤副理事長は、なんと建築関係のお仕事とか。
古澤:
「フルハウス」という空間プロデュース会社を2006年に立ち上げました。平たく言うなら工務店のお仕事ですね。
ジャンルはBtoB、BtoC、そしてBtoGと言われる公共工事にも携わります。公共工事に関しては、岐阜市が最初でそれが3年前のことで、酒井さんの母校でもある加納高校の芸術棟の改修工事にも携わりました。
酒井:
加納高校の芸術棟ですか。全国的に珍しい普通科・音楽科・美術科のある学校ですから、それを手掛けられたのは大変貴重な経験ですね。
公共工事はスキルがないとできませんし、制約条件も多いでしょうから、やり切るにはご苦労も多数あると思います。
また、岐阜市の玉宮で大変人気の居酒屋の内装にも携わったそうで、古澤さんも大活躍ですね。
そんな中で、お二方が立志教育プロジェクトに深く関わるようになったのはなぜですか?
岩田:
このプロジェクトを立ち上げたのは、経営コンサルタントの角田 識之さんです。
みんなはニックネームである臥龍(がりゅう)先生と呼んでいますが、その臥龍先生が羽島市の正木小学校で志授業をされた時に、私が教務主任だったんです。
準備や指導のお手伝いをしながら、子どもたちに語り掛ける臥龍先生の様子を側で見ていて、「これはいい!」と思ったのが最初のきっかけですね。
また講演後の感想を聴くと、主任を含めた先生方から「子どもたちに志を持たせるということに意味があると実感した」「志あるものは、ちゃんと子どものところに届くんだ!」という意見が出ました。
その後、臥龍先生の教えを受けた子どもたちがどんどん変わっていくのを見て、また先生がたからも「自主的に子どもたちが手を上げるようになった」という声があがり、ぜひこれを広めていこう。多くの学校に取り入れていこう。そう考えるようになったのが2008年のことです。
こうして翌2009年には岐阜・中濃エリアで志授業が始まりました。
酒井:
私の息子は中濃地区の中学に通っていましたが、志授業を受けたのが、確か2012年でした。良い経験をさせていただき、ありがとうございました。
その頃で既に年間20校近くで立志の授業が展開されていと聴きました。
古澤:
私が関わったのは2013年からです。
私は映画が大好きで、ある時「ソウルサーファー」という映画を観てその映画からほとばしるような人類愛を感じました。その映画をより多くの、特に子どもたちに伝えたい、という思いから仲間内で上映権を借りて市民文化センターで上映会を実施する企画を考えました。
より多くの子どもたちに声をかけるには学校で宣伝してもらえれば、と教育委員会に持ち掛けたら、教育NPOの名前があれば後援して下さるとのこと。それで当時NPOの理事長だったテイクオフ(株)の井上会長、社会福祉法人 万灯会の岩田副理事長に相談したところ、名前を貸してあげるからメンバーになりなさいと言って頂きました。
お二人の多大な協力で上映会は無事できましたし、結局そのまま10年間NPOで活動を続けることになりました。
強烈なリーダーシップの井上理事長と、NPOを運営していく上で必要な全ての実務を担う岩田副理事長の存在。そしてお二人の献身的な情熱と努力がなければ、このNPOは存在していません。
酒井:
映画がきっかけとは意外でした。見て欲しいという熱意と行動力がすごいですね。
~「お役立ち山」「夢作文」のワークで目標を見える化~
酒井:
ところで、立志教育支援プロジェクトの中核となる「志授業」では、子どもたちにどんなことを伝えているのですか?
古澤:
ケースバイケースですが、目的はひとつ。それが「夢と志を持つことは素晴らしい」と子どもたちにしっかり伝えることです。
実際、夢があっても「あなたはどうですか?」と問われて即答できる子は少ないですし、日々の生活や環境、周囲の大人の声でかき消されてしまうこともあります。
ですから「どういう方法であれば、簡単に夢や志が持てるか」について、貴重な機会としてしっかりと伝えるようにしています。
酒井:
夢や志が持つのは簡単ではないとは思いますが…どういう方法があるのですか?
古澤:
実は結局「今やれること」が大切になるんです。
例えば周囲やご先祖様に感謝をする、挨拶から始まり、周囲や自分に掛ける言葉を意識する…など。
ありふれたことのように聞こえますが、それらを大切にすることで、生きる姿勢が形成され、結果的に自分にとってベストな夢や志に導かれていくと考えます。
ですからまず姿勢を作るためのエピソード、私自身がどんなことを悩んだり考えたりしながら私自身の夢や志と向き合っているか、自己開示をすることで子どもたちの共感と置き換えが生まれるように意識して話をしています。
酒井:
なるほど。いきなり答えに辿り着くのではなく、姿勢から入るのですね。所要時間や具体的な内容を教えてもらえますか?
岩田:
1回、45~60分くらいです。
基本は「お役立ち山」「夢作文」という、私たちのメソッドに基づいたシートに記入をしてもらうことです。
まずは「お役立ち山」。
これは、ひとつの志を見える化するもので、人生における目標となります。
目標も志もとても大事ですが、少し違います。
例えば、女子マラソンのQちゃんこと高橋尚子選手の生き方を「お役立ち山」に表したのですが、Qちゃんの目標は「金メダル」ですが、志は「オリンピックを通して、より感動して欲しい。大好きなマラソンをみんなに知って欲しい」。そこを伝えます。
酒井:
Qちゃんは、岐阜県民の誇りですね。
古澤:
だから、題材に最適なのです。
一人一人がそれぞれの持つ「高い山」に登るために、今日からできる一歩を埋めていく。
誰にでもできることなのだから、「まずは書いてみよう」「とにかくステップを踏んでみよう」と思ってもらうのが目的です。
酒井:
それができたら、どうするのですか?
古澤:
次が「夢作文」です。将来、こうなっているということを作文に書くのです。
ご存知のように、著名人って自分の夢をしっかり文章に残していますよね。
本田圭佑選手も「セリエAで背番号10を付けて大活躍します」と小学校6年生の時に書いて、それを実現しました。
とはいえ、夢作文の効能は「実現する」というより「この作文を見返すことで、自分の夢に対するモチベーションを維持する」ことなんです。ただ、実際に成長の過程で夢は変わってもいい。むしろ夢が変わること自体が成長だとも言えます。だからお役立ち山も夢作文も何度でも書き換えて欲しい、と思っています。
酒井:
なるほど。「お役立ち山」を書いたモチベーションを保ちながら、「夢作文」で実際に文章化していく。さらにそれを読み返して、自分の夢を維持する。本人の意気込みや魂が入りそうですね。
で、それを冊子にされた。
岩田:
はい。最初に作ったのは正木小学校で臥龍先生の志授業が終了して2年後です。
「将来こうなりたいな…と思うのはいいとして、お役立ちの山を登るのは簡単じゃない」「大変だからこそ、継続的な取り組みが必要」「底のない谷はない、とはいうけれど、本当にできるのかな…」といった葛藤も子どもたちにはあると思います。
でもその中で「だとしても自分はこっちに進もう」「それなら自分は違うところに行ってみよう」と、各自自分のお役立ちの山を決めて行ってほしい。
そんな気持ちで冊子を作りました。
酒井:
書くだけで自分の進むべき道を発見できる、しかも継続することに繋がる。本当にいい冊子だと思います。
しかし、冊子を配って配布するにも費用が掛かります。その費用はどうしているのですか?
岩田:
前理事長の岩田雄治さんがスポンサー企業の開拓にも力を注がれ、最大10社の企業様から協賛金をいただくことができました。このお金のおかげで、子どもたちに配布する冊子や、広報誌の印刷、立志教育支援フォーラムの開催費用を賄うことができています。
酒井:
「志授業」だけに、臥龍先生に始まる先人の「志」が今に繋がっているのですね。
~先生も親御さんも巻き込んで、応援してもらう仕組み作り~
酒井:
さて、実際に志授業をされる中では、どんなことを感じますか?
岩田:
本当は、授業の中で自分の将来を発見してもらいたいのですが、やはり1回だけでは難しい。そして、もっと子どもたちに自信を持ってもらい、悩みながら自分を見つめて欲しい。
そうなると、実際子どもたちを指導する先生に、1年間様子を見守ってもらいながら指導してもらうのがいいと思っています。
実際、先生方にお話を伺ってみると、どの先生もあきらめず、コツコツと努力して、自分が良いと思ったことに真摯に取り組まれているのがわかります。
他の先生のやり方を見ることで「じゃあ自分はどうなの?」という問いかけにもなる。
「志授業なんてもともと無理!とか私は辞める!って言っていたけれど、○○先生みたいに何回でもやろう」とか、「足りないところを埋めていこう」となるんです。
先生も子どもも意識は同じですね。
とはいえ、「じゃあ中学に行ったらこれをやろう」と、卒業・進学時に意識新たに出発してもらいたいのですが、そこで終わりがちになります。
そんな時は親の出番。
親御さんの立ち位置や関わりで、子どものその後は大きく変わってくると思います。
酒井:
確かに。子どもにとって親御さんは最大かつ永遠のサポーターですもんね。
古澤:
本来そうですし、そうあるべきですが、その一方で子どもの可能性を一番潰しがちなのも親の存在です。私も常に気を付けるようにしていますが、自分を基準に子どもの可能性を当てはめようとしてしまいがちです。そこでNPOとしては家庭教育学級も大切にしていきたいと思います。
酒井:
親御さんにも役割もあるということですね。家庭教育学級というのは何ですか?
古澤:
はい。家庭教育学級というのは学校やPTAが主催する親御さん向けの学びの時間です。対象が親御さんなので、そこで当NPO活動の存在や志授業の内容を知っていただけるよう働きかけるものです。そこで親御さんも巻き込みたいと考えます。親の影響は大きいですから。
岩田:
志授業は、総合的な学習の時間の最終学年の内容として位置付けたいものです。
ある学校では、1・2年生の生活科で「地域にこんな人がいるよ」「たくさんの人にお世話になっているんだね」と学びます。
総合的な学習の時間が始まる3年生では、1粒の豆がたくさんの豆を作ることを体験し、命の尊さ知ります。その豆が、味噌やきな粉、お豆腐などに変身し、命をいただくことや自然との関わりを学びます。
4年生は福祉。福祉とは、「ふだんのくらしのしあわせ」というように、誰もが幸せになれるように弱い人を助けること。障がいは不幸ではなく不自由だと捉え、ともに助け合い補うことを各自で気づいてもらう。それを知ると、生き方がちょっとずつ変わってきます。
5年生は環境。人間のエゴによる環境破壊に気付き、地球の中にいる自分たちがこれからどう生きるかを考えます。
6年生はいよいよ卒業なので「何を大事にしていくのか」そして「自分で考え、判断し、行動する」ことがゴールになると思っています。だからこそ、ここに志授業が必要になると考えています。
酒井:
それを年間で70コマもやるわけですね。
自身で調べ、考え、理解して発信していく。僕らの頃とは全然違いますね!
岩田:
学年ごとに知識や知恵を得ながら、6年生では講話でいろいろな方の話を聞き、実践的に具体化・方向づけしながら「私はこれが大事」「僕はこれ」という思いを中学まで持っていってもらうのが目標です。
酒井:
大人でもこの階段は時間がかかりますし、なかなか「私にはこれが一番大事!」には持っていけないですよね。
岩田:
それこそ大谷選手レベルまで行ける子は一握りでしょうが、きっかけを作ることが大事なんですよね。私たちが池に投げたものから、良い波紋が広がればいいと思っています。
逆にそれくらいのことしかできませんが、何もしないのではなく、ちょっと考えて、ざわざわしたり悩んだりしてほしいです。
酒井:
かなり長い旅路ですが、積み重ねて、一人一人が自分の進む道を考えられるように育む…すごいことですね。
古澤:
学校の先生だった方、自営業や民間企業の方など様々な職種の方がこれまでに関わり、それぞれ想いのある方々のバトンを繋いでこれまでやってきました。
酒井:
現在、「立志教育」ができる認定講師の先生は、会員の中で何名いらっしゃるのですか?
岩田:
8人です。人生講話をお願いできる方も含めると、お話をできるメンバーは20人弱くらいですね。最終的に子どもたちが「一人で考えて生きていく」ところまで持って行けたらいいなと思っています。
感謝の気持ちを持って、一人よがりにならず、みんなの中で生きていくことを意識していくと、不思議と自分の良さもわかってくるんですよね。
~偉人ではなく、すぐ側で頑張っている人に学ぶ~
岩田:
実は3月末に、海津市で5校の小学校の統廃合があって、最後の卒業式をしたんです。
証書授与の後にみんなの方を向いて自分の志を発表し「がんばります」と伝えていましたが、親御さんはもちろん地域の人もいて、多くの方の応援があると子どもも余計がんばれると感じました。
このように卒業式で志を発表するケースもありますし、卒業生を送る会で志発表して「これからこうやっていきます」という意思表示をするケースもあります。
古澤:
僕の志授業は、1年かけてやっていますが、1年の最後に親御さん向けの授業参観で、それぞれお子さんが発表してもらっています。
酒井:
それはいいですね~。親御さんもきっと喜ぶでしょう!親御さんの前で発表するとそれは約束のようになって、一人一人のぶれない軸になるかもしれませんね。
ところで、毎年夏に大きなイベントをやっていらっしゃいますよね。
岩田:
はい、立志教育支援フォーラムin岐阜ですね。毎年8月に岐阜市のみんなの森メディアコスモスで開催しています。現地だけでなく、Youtubeでオンライン開催もしています。
このフォーラムのメインとなるのは2つです。
1つは、子どもたちの「夢・志」の発表会です。昨年は9名の子どもが、それぞれ1年学んで立てた自分の志を発表しました。
しかも、ただ発表するだけでなく「この講話がよかった」「この言葉が印象に残っている」「こういう生き方をしたい」という工夫を加えます。自分の志である「お役立ち山」を発表するだけでなく、この山を作るに至った思いを加えるわけです。
酒井:
昨年の例ですと、どんな発表がなされたのですか?
古澤:
9人の発表内容は以下のようになります。
「宇宙航空プロジェクトの研究員になり宇宙のすばらしさを伝えていきたい」
「飼育員になり動物も人も幸せに感じる動物園をつくる」
「児童文学作家になり読者が笑顔になってくれる作品をつくる」
「自分の作ったお菓子を美味しいといってくださった方の笑顔を見て、お菓子作りを通してみんなを笑顔にしたい」
「薬の開発を通して精神的にも辛い思いをしている人の役に立ちたいし、ノーベル賞受賞を目指したい」
「町の住民を幸せにするために市長を目指したが、今は、まず身近な人を幸せにしたい」
「これまで出会った担任の先生のように信頼される教師になりたい」
「給食で子どもたちの栄養価を補うだけでなく心も満たしていけるようにする」
「6年生の時は獣医師になりたいと考えていたが、得意な英語を活かしてけるような3つの方向(科学者、獣医師、管制官)を考えている」
酒井:
すごいですね。単に「○○になりたい」ではなくて、「何のためになるのか。なって何をするのか」が皆さん明確ですね。しかも、「自分の得意なところに目を向けてそこを伸ばす」とか、志を生み出すきっかけなども織り込まれている。
目標だけじゃなく、目的や、その想いに至ったキッカケが明確だと、そこを目指していくときの覚悟というか、粘りが違ってきますね。簡単に諦めないというような。
このタイトルを見ただけで、先生や親御さんが子どもたち一人一人と向き合って、会話しながら一緒に考えたとうことがよくわかります。
古澤:
もう、どの生徒の話も感動しっ放しです。
酒井:
めまぐるしく変わる社会の中で、自分はこう生きよう、という意思を持つことの大切さがとてもよくわかります。
岩田:
立志教育支援フォーラムの2つ目が特別講演です。夢を持って生きる大切さを伝えるもので、各分野の専門家さんに講演をしてもらっています。
昨年は書家で岐阜県世界青年友の会常務理事の臼井千里先生に来ていただき「国際交流~過去・未来~激変する国際社会の中で求められる要素とは?」という演題でご講演をいただきました。
臼井先生の話は、「志あるところに道は開かれる」というリンカーンの言葉と、次代を担う若者に3K「興味を持って、経験を積み、継続すること」の大切さを説いていただきました。これを聴いた親御さんには、「こうやって子どもに伝えればいいんだ」とか「こんなふうに見守らなくては」という気付きがあったのではないかと思います。
志を持つ。その実現に歩み出す。それは当然、困難な道のりなのですが、「無理だから辞める」ではなく、軌道修正したりスモールステップにしたりして克服できることを、各自で考えられるようになるといいですね。
酒井:
特別講演からも多くを学べるのですね。親子で同じ講師の話を聴けるのはいいことですね。
ところで、フォーラムでの発表は何年生が多いのですか?
古澤:
前年度末にフォーラムで発表する生徒が決まってから、発表までは半年あります。発表時には、学年が1つ上がり、6年、中1、中2,中3の生徒が代表になることが多いです。
酒井:
いいですね。純粋な年頃で。「将来の夢はプロ野球選手!」と目をキラキラ輝かせて言える時期って、人生の宝物だと思います。私は大相撲が大好きで相撲取りになりたかったけど、体力的に無理なのは子ども心に明らかでした。ですから、大相撲を報道する記者に憧れました。
結果的にスポーツライターには成れませんでしたが、コンサルタントの傍ら、書くことも生業の一つとしています。やはり、子どもの頃の志は大事なんですね。
古澤:
酒井さんの著作物はいくつも読みましたが、どれもわかりやすくて心に残ります。
酒井:
ありがとうございます。お役に立てて嬉しいです。
ところで、先程からお話が出ている「人生講話」の語り部は、どんな人選をされているんですか?
岩田:
大人なら誰でもOKなんです。
ただ話してもらいたいのは、「こんなこともあった」「こんなことで悩んだ」があって、「だからこうした、今はこうやっている」という流れ。
もう一人の副理事長の酒井さんにも以前講演してもらいましたが、「留学して戻って、いろんな岐路もあったけれどその都度考えて、自分の選択が失敗だと思わない努力をしてきた」ということを話してもらいました。
志授業を受けたものの次に繋がらないという時は、それぞれのニーズにあった人生講話の講演者を紹介することで、変わっていけるかなと思います。
古澤:
この対談の会場を運営しているのは岐阜駅前の『海外生活』さん。海外留学希望者を斡旋するのがお仕事ですが、ここのスタッフさんの一人も、実は同じNPOのメンバーだったのです。彼女は元小学校の先生。それを辞めてこちらに就職したんですね。
それで「どんな思いから、このお仕事を始めたのか」「この仕事のやりがいは何か」からはじまり「みんなも好きな道に進めるよ」ということを伝えてもらいました。
求めているのは、自分の志が何で、それを実現するために、どんなことに苦しみ、克服してきたか、毎日どんなことを想い、何を心がけているのか、ということ。そこには、どんどん変化する世の中を、力強く生き抜いていってほしいという強い願いがあります。
ですから断片的ですが、人がどんな価値観を持ち、どんな苦しみを持って生きているか、人生そのものを見てもらいたいと思いますね。
酒井:
小さな子どもでも理解したり、吸収できるものでしょうか。
岩田:
いわゆる偉人じゃないことがいいんです。身近にいる、頑張っている人。
大学で事故に遭って入院してから、トライアスロンに挑戦した方にも来ていただきました。
古澤:
だからこそ、逆にアンチテーゼになるような…私自身も建築をやっていますが、先程の岩田先生のお話のように、僕は大学の建築科に行って設計事務所に勤めて…という絵に描いたようなプロセスではなく、紆余曲折あって今があります。
夢や志もなくフラフラしているように見える。でも後からみると結局自分の好きなこと、ワクワクすることを追求してきた。それらが全て今やっていうることに繋がっているなと。だからそんな生き方だってありなんだと(笑)。僕がいろいろな国で体験した様々なことを子どもたちの五感を刺激するように意識をして話をしています。「お金は生きていくには必要だけれど、お金だけを追いかけていると、仕事はダメになる」とかね。
酒井:
そうそう、失敗談がいいんですよね。確かに、お金を追いかけるとロクなことがない(笑)
人は成功体験には距離を感じるけれど、失敗談を聞くと、なぜかその人のことを好きになる。
岩田:
図書館に並んでいるような伝記が全てではなく、自分の周りにいる普通の誰もが一生懸命生きていることを知ってほしいですね。
それから親御さんたちにも、失敗だと簡単に言わないで欲しい。
失敗って、上手くいかないことではなくて、辞めた時と諦めた時なんです。
壁にぶつかったら、回り込んだり、別の方法を探せばいいだけで、これはもはや挑戦。
失敗とは回れ右をすることなんです。
いろんな方から話を聞いて「みんな簡単に生きているわけじゃない」「苦労しながら工夫しているんだ」ということを感じ、その子その子がそれぞれ感じながら、いいなと思ったことを取り入れていって欲しいですね。
~将来を「仕事」ではなく「生き方」という軸で捉える~
酒井:
目標に向かって進むことの大切さはもちろんですが、失敗とはどういうものか。諦めない限り失敗じゃなんだよ、ということを伝える教育は、今こそ必要ですね。
古澤:
いわゆるキャリア教育だと思っています。1年生から育てていきますが、思うにキャリア教育って「どんな職業に就くかではなく、どんな生き方をするか」だと思うんです。
酒井:
生き方…。確かに、音楽が好きで音楽家になりたいと思う。でもその子がそれを口にした途端に「楽器はあなたより上手い人がたくさんいるし、音楽家なんてなれっこない」「音楽で食べていけるのはほんの一握りの人。あなたには無理」なんて言ってしまいそうな大人がいっぱいいます。
岩田:
その通りです。ですから職業ではなく生き方。
小学生のうちって、仕事をしている人の生の声を聞く機会はないので、第三者が関わることで、考えていける環境を作りたいと思います。
仮に親がダメ出ししても、「大丈夫、私出来るもん。あの人もできるって言ってたし」のように、人生講義で聴いた人の話が勇気になって諦めない子が出てくるかもしれない。
今はもうどの学校もやっているんですよ。多少違いはありますが、やろうとしていることはリンクしています。
ですからうまく入り込んだりタイアップしながら、どの子も輝いて欲しい。
そこに工夫をして取り組んでいます。
こうした教育の中での選択肢のひとつが、私たちの志授業だと考えています。
酒井:
なるほど。まずは子どもが主役であり、陰日向となって周りの大人がサポートしていかなければならないですね。
今後の課題や、目標はどんなことですか?
古澤:
私たちは民間なので、スポット的にやって終わりというところから始めましたが、やればやるほど単発の難しさを感じます。
また、学校のトップの方が変わると一貫できないのも課題です。
これが出来ている羽島市の例は、かなりのクオリティだと思います。
酒井:
ある程度定着して「こういうもんなんだろう」としてカリキュラムになっているなら、上が変わっても持続できますけれどね。
岩田:
これまで私たちは、パラシュートのように各地の小中学校に志授業をやりませんか?と「投げかけ」をしていきました。今後は落としたものを、どうやって広げていくかが課題だと思っています。
これまでお話ししたように、年間を通して、いかに自分の生き方を持てるように働きかけ、私たちがどう関わっていくか、ですね。
志授業の内容自体はとても良いのですが、学校のカリキュラムの中に位置付けられていないとやりきれない。だからこそ学校とのパイプを広げ、取り組みがスムーズになるといいなと思っています。
本当に学校ってやることが多くて、その中で先生が少しでも楽してもらい、安心して頼ってもらえたら。
学校と私たちが関わることで、子どもたちがより自分の未来を見られるといいですね。
古澤:
加えて、親御さんとの関わりができるといいですね。
実は私が関わりだした時とは、状況が変わってきています。それが子どもの数が減っていることと、地域社会が崩壊しているということ。
かつては制度としてあった、子ども会やPTAもなくなっているのに、学校は相変わらず「地域と学校と協力して子どもを育てよう」と言っている。そこにズレがあるんですよね。
だからこそ、第三者がいろんな形で関わる必要があると思います。
岩田:
人生講話や志授業、単発でもシリーズでもいいから「こんなことできますか」という声をすくい上げる場を持ち、学校と関わりを持ちたい。
学校も私たちNPOも変化をしながら、求められることを共有して、マンパワーでやってければいいですね。それにはメンバーや認定講師、人生経験豊かに生きる、幅のある方々の力も必要です。
多くの方に関わっていただき、広げていこうと思います。
酒井:
とても奥深いお話ばかりで、子ども、ひいては次の世代を育てる難しさと、素晴らしさを現場の声で実感できました。
私もできることがあれば、ぜひ協力させてください。今日はありがとうございました。
プロフィール
岩田 喜美子(いわた きみこ)
NPO法人 岐阜立志教育支援プロジェクト 理事長
1958年、岐阜県生まれ。愛知県一宮市在住。
岐阜大学教育学部卒業後、岐阜県地方公務員として勤務し、教頭職にて退職。その後5年間、初任者指導にあたる。
2008年に正木小学校にて志授業が始まって以来、プロジェクトに携わる。2023年4月からは、海津市教育委員会学校教育課に勤務。
古澤 丈介(ふるさわ じょうすけ)
NPO法人 岐阜立志教育支援プロジェクト 副理事長
1968年、岐阜県生まれ。岐阜県岐阜市在住。
1991年、南山大学法学部卒業後、株式会社JTBにて、9年間組織団体営業職に就いた後、株式会社ヤマガタヤにて貿易業務として5年勤務。
2006年、自宅にてフルハウスを創業、2015年には株式会社を設立。
岐阜立志教育プロジェクトには2013年より参加。2024年より、小学生向けには、新しいコーチングの手法を活かした教育事業を、中学生以上には社会人講話やNPO活動の志授業等を通した取り組みを行う。
https://vjiken.com/conversation/iwata-furusawa?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTEAAR1VswdKpdX1bf9Vq-w3RhGTgS_NJL7uj6Y5Mf5htE6Ta-IpVYhXf2NYaeg_aem_lVxe-0NHVektBqQ5P4Vn4A
https://vjiken.com/conversation/iwata-furusawa?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTEAAR2O5tvJHTYSFYphyb5vmO27RNVL-zIUFh863ABIYbxapODZmPzQNTqsECw_aem_CqiB0L-MxryHzP0ZGvzaEQ